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ウイルモット 数量ファイナンス(全2巻)
Paul Wilmott著 田畑 吉雄 他訳

B5判変形 ?・?巻 全1,100頁
全2巻 (函入りセット) ¥24,000

【発売予定】

 ポール・ウイルモット(Paul Wilmott)による「計量ファイナンス(Quantitative Finance)」は、B5サイズで上・下2巻、1,100ページもの大作である。全体を7つの部門 と付録に別け、各部門はバラツキはあるものの10程度の章から構成され、合計67章からなる圧巻である。各章は平均10ページから20ページ位にまとめられており,広範な ファイナンスの各分野を平等に網羅しているのが特徴である。そのため、ファイナン スのテキストとしてだけでなく、金融工学辞典代わりにも役立つ便利な書物である。
ただ、辞典と根本的に異なる点は、あくまでもテキストという姿勢が貫かれており、 各項目を独立に説明するのではなく、難しい内容や最新の話題も基礎から順序良く平易に解き明かし、項目間が有機的、系統的に説明さてれている点である。したがって、辞書のように「調べても結局理解できない」というような状況は訪れないと断言できる。
 ポール・ウイルモットは1959年生まれの気鋭のロンドンに在住する研究者で、多くの著書と研究論文をエネルギッシュに生み出していると同時に、資産管理コンサルタント、ソフトウエア開発などの分野にも進出し、顕著な成果を収めつつ幅広く活動している。彼は小泉首相と同じく2人の子持ちで、かつ、現在は独身である。ロンドンの洒落たレストランやバーなどを夜な夜な美人を伴って出没していると告白しているように、イギリス人特有の肩苦しさはなく、本書の筆致もくだけた表現が多く、要所要所に漫画が挿入され、難解な内容を楽しく読めるように工夫がなされている。
 本書は、ファイナンスの教科書としてベストセラーになった「デリバティブ・・・金融工学の理論と実際・・・」を全面的に改訂し、最近の話題を大幅に取り入れた2000年発行の最新版である。前半の3分の1はデリバティブの価格評価に欠くことのできないファイナンスの基礎と、以後で頻繁に利用される確率解析(ランダム・ウオーク、ブラウン運動、マルコフ過程、マルチンゲール、確率微分方程式など)を中心とした数学的な準備がきわめて丁寧になされている。説明の仕方は、あくまでもユーザー・サイドに立ち、「数学は武器として利用するのであって、数学を学ぶのではない」という強い意思が感じられる。わが国で目にすることができる金融工学や数理ファイナンス関係の多くの書物は、数学的な厳密さを強調する余り、極端に抽象的に書かれ過ぎ、解の存在や一意性の証明という本来はどうでもよい部分に大部が費やされ、「森に入りて樹を見ず」の傾向が強く、初学者の学習意欲を削いでいるものが大半である。ところが、ウイルモットによるこの本は、読者に測度論や関数解析についての知識は仮定せず、できるだけ抽象性を排除し、むしろ、身近な例から直感的に理解することに最大の努力が払われているのが特徴である。
  後半の3分の2は前述の書物の大幅な改訂部分である。とくに、市場の動きの予測手法、効用理論、デリバティブと確率制御、アメリカ型オプションの(最適とは限らない)行使問題、確率的ボラティリティと平均分散モデル、配当のモデル化など、いわゆる非完備市場に関する話題も積極的に取り上げており、現実問題への応用を意図して書かれている。 書物全体としては、著者の豊富な実務経験を拠り所にして,新聞 の経済欄や株式欄から抽出した図や相場表、各種の表とグラフなどをさまざまな形で引用し、その読み方や意味などを懇切丁寧に説明している。このため、実務畑の読者なら、現代ファイナンス理論の数量的な考え方の基礎から応用までを完璧に修得できるし、学生(とりわけ、大学院学生や理科系の学生)にとっては利用価値がきわめて高く、この書物を読むことによって株式新聞で書かれている用語や内容を理解できるようになるものと考えられる。
 わが国の大学教育の現状を見れば、理科系の学生といえども、確率微分方程式に関してはほとんど教えられる機会がないのが実情である。したがって、この分野に関しては理科系の学生も文科系の学生と同程度の知識しか持ち合わせていないので、数学の学力が劣ると卑下している文科系の学生も、理科系の学生に何ら遠慮する必要はなく,対等の立場で読み始めればよく、読み進むうちに最新の金融工学に必要な基礎学力が育成されるものと考えられる。
 内容的には表題が示すように金融・ファイナンスの数量的扱いを目指しているが、抽象論をできる限り排除し、直感的に理解できるように到る所で工夫を凝らしている。
  この基本姿勢がもとの書物がベストセラーになった最大の理由であり、本書でもその姿勢は全く崩されていない。その工夫として、理解し易い身近な例を豊富に取り上げているだけでなく、漫画を含め、絵、グラフ、図表、コンピュータ・グラフィックスによる3次元の立体的なグラフなどを積極的に取り入れていることが挙げられる。また、実務の分野へ直ちに応用可能なように、Visual Basicによるプログラムが随所に掲載されているほか、スプレッドシートもうまく利用されている。さらに、他の書物、とくに、わが国で公刊されている書物ではなかなか見られない最新の話題を網羅している点も大きな特徴である。例えば、オプションに対する内容では、古典的なヨーロッパ型とアメリカ型オプションだけでなく、バリアーオプション、アジアオプション、ルックバックオプションなどの高度なオプションの解説にそれぞれ1章を割いている。また、確率的ボラティリティ、クラッシュのモデル化など、類書に見られない最新の豊富な内容を含んでいる。
 67章の内容の要旨をすべて述べるにはかなりのスペースを要するため、以下では各部門の内容を簡単に記しておこう。
第1部  デリバティブ(派生証券)の基礎(1章から14章)
金融市場と金融商品の役割の概観、オプション、オプション市場の紹介、裁定、プット・コールパリティ、取引戦略などの説明、確率解析の初等的な解説から始まり、Black-Scholesの公式、オプション評価のための偏微分方程式、Black-Scholesの公式の感度分析、アメリカ型オプション、複数の基本証券に対するオプションなどの議論について連続時間モデルと二項モデルの解説、市場の予測と取引のゲーム的考察など。

第2部 経路依存型オプション(15章から21章)

 第1部では基本証券の価格を表す確率過程の径路とは独立にオプションの行使が決定されるような簡単なオプションが取り上げられたが、この部門では過去の株価のような径路に依存するもう少し複雑なオプションが考察される。とくに、バリアーオプション,アジアオプション,ルックバック、および各種のエキゾッチクオプションについて詳細に議論されている.

第3部 Black-Scholesの公式の拡張(22章から37章)

  さまざまな要因を無視した経済学的に理想的な状況で導出されたBlack-Scholesの公式が、現実の市場ではどのように利用できるかという観点から、公式を再考する。市場を取り巻く種々の影響を考慮した場合,この公式がそのままの形で成り立たつか否かを調べるのである。現実には、連続的なヘッジが不可能であるため、離散的なヘッ
ジによる影響、取引費用を導入したとき、定数でないボラティリティの問題、基本証券の価格変動にジャンプや暴落のある場合、基本証券に配当を考慮した場合、オプションの予測などを考察する。

第4部 金利の構造(38章から50章)

ここまでは、金利は一定値を取るものと仮定して議論が進められてきたが、現実の市場を観察すれば、金利は大きく変動している。そこで、ここでは金利の変動に目を向け,そのことから派生する各種の債券、利回り,スワップ、金利のデリバティブ、転換社債などの理論と性質を考えている。とくに、金利の期間構造モデルとしてHeath-
Jarrow-Mortonモデルを詳細に検討している。

第5部 リスク尺度とリスク管理(51章から58章)

各種のリスク管理に関して金融工学としての議論がされている.ポートフォリオ管理、リスクの測り方、信用リスクの考え方とデリバティブ、暴落に関する計量的な考察を対象とした最近わが国でも流行している分野である。

第6部 さらなる話題(59章から62章)

不動産を基本資産とするようなリアルオプション,エネルギー・デリバティブなど最新の話題を取り上げている。最近の環境問題で注目されている公害の排出権の売買問題などもこれに含まれよう。

第7部 さまざまな数値解法(63章から67章)

偏微分方程式を数値的に解くための各種の差分法とモンテカルロ・シミュレーションについてコンピュータ・プログラムも同時に掲げられている。
最後に付録には必要な数学公式がまとめられている。