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金融工学入門

田畑吉雄 著

A5判/232頁
本体価格4,800円

ISBN4-87315-105-8



(本書について)
 本書では,「投資に伴うリスク・ヘッジ,および,リスク管理」に関する考え方とその方法を理解することが全体の柱となっている。古典的リスク・ヘッジ手法,および,最近の金融工学の中心であるダイナミック・リスク・ヘッジに関する題材を取り上げる。
 本書は,大学の理科系学部でも必ずしも講義されていない「確率解析」という数学的な道具を初学者にも直観的に理解させるという点をモットーとして,経済,経営,商学などの文系学部の高学年から大学院生および理数系の学部で金融工学に興味を持つ学生,ビジネスマン・エコノミスト等の実務家を対象としている。


(本書の特長)
- 極端な抽象レベルの議論はできるだけ避け,数学的厳密さを失わないが直感的にその本質が理解できることを第一のねらいとして基礎から順次解説を進めていく。なお,少し厳密な表現は付録にまとめる。
- 経済の知識のうち最小限のものについて述べるに留め,各種の証券の制度や特徴も数学モデルで簡潔に記述できるもののみをとりあげる。


(本書の内容)
 本書は,大別して2つの部分から構成される:

 最初の部分では古典的リスク・ヘッジ手法が解説される。この部分は既存のファイナンス論の書物では必ず紹介される古典的ファイナンス論の中心課題であるが、その内容の理解が最新の金融工学を理解するためには不可欠であるから,その数学的な背景を強調してごく簡単に触れることにする。すなわち,一般の投資家が通常行っているように,投資対象を銀行預金と株式のみに限定したマルコビッツ・モデルを取り上げ,最適ポートフォリオ(資産配分)と市場ポートフォリオの関係を説明する。ただし,金融工学の立場を強調して,過去の株価から収益の分布を推定する統計的手法なども実務に役立つように記述する。つぎに,消極的投資戦略の代表であるが,市場ポートフォリオやベンチマークの価格変動をそれらよりもはるかに少ない構成銘柄でできだけ模擬するようなインデックス・ファンドの構成法とそれらのパフォーマンス評価について言及する。とくに,インデックス・ファンドに関しては,著者独自の内容を解説し,計算の複雑性の問題も絡めて解説する。
 ここで必要な数学知識は,行列の積と逆行列,ラグランジュ乗数法,確率と確率変数の概念,期待値と分散に関してであり,これらは大学教養レベルで修得済みと仮定しておく。

 もう一つの部分が本書の主要部であり,最近の金融工学の華であるダイナミック・リスク・ヘッジに関する題材を取り上げる。すなわち,各種のデリバティブ(派生證券)の性質と市場における役割を解説し,それらの価格評価式の誘導が目的である。そのために,確率過程の基礎から始め,ブラウン運動,伊藤の確率積分,確率微分方程式,伊藤の補題,マルチンゲール,ギルサノフの定理などを含む確率解析に焦点を当て,余り抽象的にならない記述によってそれらの本質を理解できるように解説する。
 とくに,ブラック-ショールズ・モデルの基礎になる幾何ブラウン運動の性質に焦点を当て,その数学的性質の説明にページ数をさく。そして,ブラウン運動をはじめ,各種の確率微分方程式の解であるパスのありさまを図示して,なぜ,その微分方程式が当該證券の価格変動を記述するのに適当であるかを目で見て理解できるように務める。また,各種のデリバティブの価格評価を行う際に欠くことにできない「伊藤の補題」に対しては数多くの演習問題を示し,その計算方法を修得できるように心がける。
 つぎに,これらの理論を背景としてヨーロッパ型コール・オプションの評価式であるブラックーショールズの公式を原論文に忠実な形で説明し,ブラックーショールズ方程式と呼ばれる熱伝導型の偏微分方程式の誘導とその解導出過程を詳しく解説されている。
 さらに,最近の話題であるマルチンゲール測度(リスク中立評価)のもとでの条件付期待値の計算を用いたほうがはるかに簡単に価格式を誘導できることを初学者でも理解できるように説明する。この際,測度変換に関するギルサノフの定理という難物を正規分布を例としてできるだけ直感的に説明する。また,他の派生證券,例えば,先渡し契約や債券,径路依存型オプションのような最近の金融商品作成に欠くことにできない話題についてもリスク中立評価法を用いて価格評価が可能であることを示す。
また,明示的な公式が導出できない場合の数値解法についても工学の立場から言及する。

 巷では金融工学と言えばブラックーショールズのオプション評価式のように理解されているが,その評価式に含まれるリスク評価と管理の考え方を全体を通して強調して説明されている。すなわち,標準的な教科書やモデルで導出されているリスクとりターンの関係は,きわめて理想的な完全市場と仮定しているが,現実にはすべての市場参加者はある資産を売りたければすぐに買い手は見つからず,多くの取引費用も必要である。伝統的な金融経済学の書物ではこれらは制度の問題として逃げていたきらいがあるが,最近では理論的なメカニズムもかなり解明されてきている。そこで,売買,決済といった制度とリスクとの関係を配慮して記述することにし,金融工学のの技術を正しく使用するための基本的な知識を会得することを目的にしているものである。


(もくじ)
第1章 証券投資とリスク
第2章 ポートフォリオ戦略とインデックス・ファンド
第3章 確率過程とブラウン運動
第4章 条件付期待値とマルチンゲール
第5章 確率積分
第6章 確率解析と確率微分方程式
第7章 Black-Scholesのオプション公式
第8章 応用Black-Scholesモデル
第9章 さまざまなオプション
第10章 金利と期間構造モデル
第11章 シミュレーションと数値計算