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資産運用とリスクマネジメント
甲斐良隆 著
A5判/416頁
本体価格4,800円
ISBN4-87315-109-0
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(本書の概要)
本書は、資産運用の理論体系、また資産運用がどのように運用現場において適用されているかに関する解説書である。ストックの時代といわれてから久しいが、資産運用が我が国経済に占める影響、重要性は一段と大きくなってきた。世界一の寿命を背景にして、退職後の生活時間が延びるなかで、若年時における貯蓄と消費のバランス、貯蓄対象の善し悪しが人生後半の生活水準を大きく左右することになった。また、ペイオフの実施、確定拠出型年金制度の導入等、個人の自己責任原則が明確に打ち出され、個人に対する資産運用教育、啓蒙活動も焦眉の事項となってきた。
一方、企業サイドにおいても、自己資本に匹敵するほどの膨大な企業年金の積み立て不足を前にして、本業一辺倒だけでなく年金運用に対する認識が急速に高まっている。資産運用を担当する部署に証券投資の専門家を配置したり、コンサルティング会社と契約するケースもでてきた。 また、将来の収入不安が消費者心理を冷やし景気の立ち直りを一層遅らせている事実からも分かるように、適切な資産運用は個人、企業のレベルにとどまらず、社会の安定にも不可欠である。折りからのデフレ経済のもと、行き場を失った個人金融資産は1200兆円を超え、生命保険を始めとする金融機関は深刻な運用難に直面している。リスクマネーが社会全体に循環しないと経済の活性化につながらない。
ところで、運用スタイルを決定づけるのは想定運用期間、目標リターン、将来の不確実性、つまり、リスクに対する選好(許容)度の3要素であると言われている。とりわけ、リスクへの対応が重要である。というのは、各種の実証研究でも明らかになっていることだが、収益管理とはリスク管理に他ならず、リスクに応じてしか収益を得ることが出来ないからである。大規模、長期間の運用になればなるほど、この傾向は顕著である。リスクの時間効果、分散効果を上手く利用することにより、将来の不確実性を減少できる。
資産運用を適切に行うには、先進的なポートフォリオ理論だけでは不十分であり、資本市場の動向、運用目的に対する緻密な分析、それと多くの経験則が必要である。運用対象は何千、何万とある上、目標やリスクをきちんと定義することが意外に難しいからである。リスクは絶対的なものでなく、運用の受益者によって変わりうるものである。同じ不確実性でも、ある人にとってはリスクであるが、別の人にとってはリスクと感じないということもありうる。リスクは運用目的、評価目的に依存しているので、その局面にマッチした取り扱いが望まれる。資産サイドしか見ないアセットマネージメントから、ALM(資産負債管理)への転換が必要になってきた理由の1つでもある。いずれにせよ、リスクは本来多様な定義が可能であり、その全貌を知ることが資産運用の最初のステップである。
計測の次はリスクのコントロールである。リスクは変幻自在であり、他のリスクに変えることも売買も可能である。保険を掛けたり、先物でヘッジするだけでなく、逆に、賭けをしたりレバレッジを効かせることもできる。リスクとリターンはトレードオフの関係にあり、運用目的や損失限度額に応じて適正なリスク水準が自ずから決定される。リスクとリターンを統合するアイディアとして有力なものに期待効用仮説がある。期待効用を最大にする資産運用が最も良い運用という立場である。実際、効用関数の同定という障壁はあるものの、ごく簡単な仮定を置くことで実用解を得ることが出来る。
運用業務ほど人間の心理が投影しているものはない。システム運用が隆盛を極め、コンピュータがいくら発達しても、最後の判断を行っているのは人である。個々の人の微妙な心理の揺れが市場の価格形成に影響を与えている。特に感じるリスクが大きくなればなるほど、この傾向は強まり、リスクマネージメント上無視できない要素である。資産運用が人間の期待や不安、恐れが最も集中する「市場」で行われる限り、従来の経済学、数理工学のアプローチに加えて、心理学からの検証も不可欠である。
本書全体を通して資産運用業務のキーコンセプトにリスクを置くことにする。この視点で、従来培われてきた各種の理論体系や実務上の諸問題を解説しながら、今後の発展方向に対し道筋をつける内容となっている。
(本書の特長)
資産運用を取り上げた書物は多いが、本書はそれらに比較し次の2つの特徴を持っている。
(1)類書は数学的厳密さを追求したものか、全く逆に、実例を羅列した散漫なもののいずれかになっているものが多い。本書では、理論体系を中心に据えながら、それが如何に運用現場に適用されているか、あるいは、逆に利用されていないものであればその障壁は何かという点にも触れる。とかくファイナンスは実務家と学究派の間に大きな溝があるといわれている分野であるが、双方にとって本書が架け橋になることを目指す。
(2)資産運用の本質はリスクの最適制御であるという立場を一貫させる。リスクを標準偏差とした議論は簡明で取り扱いが容易だが、実務家の感覚に合わないという問題を抱える。本来、リスクは運用目的との相対的な関係で決まるものであり、本書はそれらの具体的例示とその解法を示す。
(もくじ)
第1章 資産運用の果たす役割
第2章 資産運用業務の概要
第3章 リスクマネジメントの基礎
第4章 ボラティリティリスク
第5章 ベータリスク
第6章 ショートフォールリスク
第7章 トラッキングエラーリスク
第8章 リスク中立評価法
第9章 投資の基準
第10章 長期均衡型アセットアロケーション
第11章 動的アセットアロケーション
第12章 年金資産運用にみる長期投資リスク
第13章 ライフサイクルファンド
第14章 リスクヘッジと保険
第15章 予測情報の活用
第16章 資産運用の非合理的側面
第17章 運用対象の拡大
第18章 パフォーマンス管理 |
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