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Excel で学ぶ 数理計画
根本 俊男著
A5判 300頁
\3,600 |
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本書の特徴
経済・経営等の社会科学分野に限らず,理学・工学といった分野にいたる広範囲において「最適」という考え方は重要な位置をしめる。最適化したい物事を数式等に代表される数理的なツールで表現したものを数理モデルと呼ぶ。数理計画とは,様々な数理モデルにおいて最適な解を導く手法から広がる方法論的な知識の固まりである。最適化したい問題が存在する分野にかかわらず,数理的に表現できてしまえばどのような分野の問題であっても数理計画の知識は適用できる。その意味で、数理計画はオールマイティーな知識であり,問題解決力が重視される現代社会でこそ多くの人が身につけるべきベーシックなものでもある。
このように数理計画は、現代社会において魅力的な知識分野にもかかわらず,数理的な表現を用いる特徴のためか,数学に不得意な印象を抱く人には近寄りがたい気持ちや苦手意識を持たせるようである。そこで本書では,そのような読者を対象に,数学的な知識の積み重ねからではなく,数理計画問題を解くソフトの使い方を中心に据え数理計画の知識習得をサポートするように構成されている。
数理計画を解くソフトは多く開発されている。本書では専用の数理計画ソフトをあえて利用せずに,多くの人が慣れ親しんでいるであろう表計算ソフトExcelに付属する数理計画用のソフト「ソルバー」を利用する。入手のしやすさと慣れ親しんだインターフェイスを持つソフトを利用することで,数理計画への初学者のハードルを低くするためである。
ソフトの使い方をより深く理解するには多少なりとも数学的な知識を必要とする。それらを避け,数理計画利用の基礎的な理解にとどめることも可能ではある。本書でもそのような使い方が可能なように工夫されている。しかし,その段階までの理解では,実際にある分野での利用の際にうまく数理計画の知識を適用できない可能性が残る。また,数学の知識を前提として書かれている数理計画関連の既刊書を読むまでには準備知識としてまだ多少隔たりが残る。そこで,本書ではさらに深く理解したい人が次の段階にスムーズに進めるように,オプションとして必要な部分には図表や絵によりできるかぎりわかりやすい表現で数学的な説明を簡潔に配置し,結果的に数理計画に必要な数学的な知識も学べるようにしてある。
数理計画の基礎知識をソフト(Excelソルバー)を中心に学び,同時に数理計画の数学的な背景にも触れることができる数理計画入門書である。
類書と比較した場合の特徴
数理計画を解くソフトは多く開発されているが,本書では専用の数理計画ソフトをあえて利用せずに,多くの人が慣れ親しんでいるであろう表計算ソフトExcelに付属する数理計画用のソフト「ソルバー」を利用する。 「ソルバー 」の利用方法を数ページ記述したExcel用のテキストは何冊か存在するが,多くの人が手軽に利用できる 「ソルバー 」を採用した数理計画のテキストは本邦初である。
また,文系向きということでソフト利用だけに注目し,特に数理的な知識には触れないテキストも存在するが,それでは現実には応用が利かない。数理計画ソフト利用を中心に据えながらも,必要な数理的な知識も簡潔に配置するという実際の利用する場面でのバランスに考慮したテキストであることも際立った特長となる。
本書の内容に対する評価
数理計画をExcelという誰でも知っているソフトウェアを中心に据えて学ばせるという,今までにない野心的な数理計画テキストである。個人レベルで数理計画ソフトを持つことは稀である上に,多くの大学でさえ数理計画ソフトを導入していることは少ない状況下でExcelを用いて数理計画を実践的に学ばせようという試みは理にかなった選択といえよう。その点から考えると今までこの観点からの数理計画テキストがなかったほうが不思議である。また,一見Excelソルバーの利用方法のマニュアルといった印象を受けるが,Excelソルバーの出すレポートの読み方やオプションの設定方法などを理解するうちに,数理計画の基本的な知識も同時に得ることができる。さらには,必要な数学的な背景は簡潔に必要部分に限定し説明が加えられているために,知らず知らずのうちに数学的な背景も理解できる。従来の数学的な基礎知識の積み重ねの上に数理計画を論じるテキストとはまったく異なるタイプの本にまとまっており,従来の方式では興味を示さなかった学生にはもう一度数理計画の面白さを感じさせるためには格好の一冊である。また,数理計画の知識を実際に利用できないかと考えている実務家が本格的な検討に入る準備としての入門書として利用するにも向いている一冊でもある。Excelソルバーは実務に利用するには非力な点が多いが,数理計画の有用性はExcelを用いたこの本で十分学ぶことが可能であろう。新しいタイプの数理計画入門書としてお勧めの一冊である。
各章ごとの内容
1. 数理計画とは
数理計画と本書の内容を概説する。
2. 数理モデル
数理計画の様々な手法を適用する対象である数理モデルの作り方に関し概説する。通常の数理計画のテキストでは数理モデルは所与として数理計画の手法に関し重心を置いて話が展開するが,本書においては解の導出に関してはExcelソルバーがサポートしてくれるので,数理モデルの表現方法に十分言及することが可能となっている。この利点を生かし,初学者が困りやすい数理モデルの作成法をしっかりここで身につけたい。
3. ソルバーで数理計画問題を解く
ソルバーの利用方法を解説する。WindowsおよびExcelの操作方法にはなれていることを前提として話は展開するが,Excelの本書で必要な基本的な操作方法に関しては付録でサポートしているので心配はない。操作方法は入力画面から始まり絵や図で丁寧に解説が進むので途中で困ることはないだろう。
4. ソルバーのレポートを読む
ソルバーが答えてくれる最適な解に関するデータ(レポート)の読み方を解説する。この読み方が数理計画においてもっとも大切な項目である。Excelソルバーはシンプルな数理計画ソフトではあるが,それでも問題持つ様々なデータを提供する。それらは問題の答えであるばかりではなく,問題の与えられた状況が変化したときに最適解がどのように変化するかまで与えてくれる。実際に数理計画を利用して提案を行うときは必要なデータである。それらのデータの読み方を詳細に記述する。
5. レポートをより深く理解する
レポートが与えてくれるデータの読み方は前章で解説したが,それらのより深い意味をここでは概説する。それらの数値の背景を知るには少なからず数学的な知識は必要である。ここでは,背景となる数学的な知識に触れながら,線形計画に関する知識を概説しレポートの示す数値の意味を考える。
6. ソルバーのオプションを設定する
ここではソルバーをより効果的に使用するためのオプション設定の方法を解説する。オプション設定を理解するためにはどのようにソルバーが解を導出しているかイメージするとわかりやすい。そこでここでは非線形計画問題に対してソルバーがどのように解を導こうとしているのかその裏側に迫りながら,オプション設定の数値の意味を習得したい。4・5・6章の内容は,他に類を見ないものであり,本書の大きな特徴になる。
7. ソルバーでは対応できない場合
Excelソルバーは手軽に利用できる数理計画ソフトではあるが,対応できない数理計画の問題もたくさん存在する。対応できない理由は(1)Excelソルバーが非力なためか(2)どのような優秀なソルバーを用いたとしても解けないための二つが存在する。(1)の理由は他の数理計画専用ソフトに頼れば解決できるが,(2)の理由は数理モデルの中には現在の人類の知識では対応できないものがあることを意味する。なぜそのような問題が生じるのか,どのように対応していけばよいのかについてこの章では組合せ最適化問題を例に概説する。
8. ソルバーをさらに活用する
Excelにはソルバーばかりではなく,シナリオやゴールシークなど数理モデルに利用できる様々な機能を有している。ここでは各機能の使い方からソルバーと連携しより高度に活用する方法を解説する。
9. 数理モデルでのExcelの利用
数理計画ばかりではなくシミュレーションや予測などExcelを活用することにより数理モデルに対し様々なアプローチが可能である。その中のいくつかの代表的な使い方を紹介する。実際に数理計画やORの実習や演習には格好の材料になるであろう。
10. 付録
Excelに慣れていない読者に対し必要な部分の基礎的な操作法について解説する。
本書の内容(詳細)
1. 数理計画とは
2. 数理モデル
(ア) 数理モデルに向いている問題・向いていない問題
(イ) 表現法
? 絵
? グラフ・ネットワーク
? 数式
(ウ) 数理計画モデル
? 線形計画
? 整数計画
? 非線形計画
(エ) 数式表現への変換方法
? 絵を変換する
? グラフ上の問題を変換する
? ネットワーク計画を変換する
3. ソルバーで数理計画問題を解く
(ア) ソルバーの利用準備
(イ) ソルバー利用の基礎
(ウ) 問題を解いてみる
4. ソルバーのレポートを読む
(ア) 解答
(イ) 感度
(ウ) 条件
5. レポートをより深く理解する
(ア) 線形計画法
(イ) グラフによるイメージ
? グラフの書き方
? グラフを用いて問題を解く
? 連立方程式の解き方
(ウ) 標準形への変形
(エ) 総当り法
(オ) シンプレックス法
(カ) 感度分析
6. ソルバーのオプションを設定する
(ア) 基礎知識1:非線形計画法
? グラフを用いて問題を解く
? 近似方法
? 解の探索方法
(イ) 基礎知識2:整数計画法
(ウ) オプション設定
7. ソルバーでは対応できない場合
(ア) 組合せ最適化問題
(イ) 解導出の困難性
(ウ) 個々のモデルの対処法
8. ソルバーをさらに活用する
(ア) シナリオとの連携
(イ) ゴールシークとの連携
(ウ) モデルの保存
9. 数理モデルでのExcelの利用
(ア) 販売予測:統計処理
(イ) 経営シミュレーション(1):シナリオの利用
(ウ) 経営シミュレーション(2):シナリオとソルバーの連携
(エ) シミュレーション実験:乱数の利用
(オ) 投資モデル:ゴールシーク
10. 付録
(ア) Excel操作の基本
(イ) アドインの利用方法
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