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Excelによる産業連関分析
早稲田大学政治経済学部教授
中村愼一郎 著

A5判/312頁
本体価格3,600円

ISBN4-87315-080-9


(本書の目的)
 産業連関分析は,経済学が生み出した分析道具の中で最も有効な分析ツールの一つであり,多くの国や地域で広範に使われている。特に,最近の地球環境問題への関心の高まりを反映して,温暖化ガスの排出分析はもとより,廃棄物処理の分析や,一般的なライフサイクル評価(LCA)に至るまでの様々な環境・経済分析に対して,経済学以外の研究者によっても広く応用される様になってきている。一方,広範な分野における国際化の進展によって,各国経済の相互依存関係がますます高度化・複雑化していく中で,その相互依存関係を数量的に把握・分析する手段として,国際産業連関表も開発され実用化されている。我が国においては,昭和30年代から世界最高水準の規模と精度を持つ産業連関表が定期的に作成公表されており,各界で広く用いられている。
 産業連関表・分析についての解説書は,理論的側面についての記述を中心とした物が多く,パーソナルコンピュータ(PC)を用いた実際の分析を解説した物は少ない。統計学関連の書籍には,エクセルを用いた産業連関分析を解説したものがある。しかし,例示的に3部門程度の小さな表が取り上げられていて,実際の分析に必要な数十部門程度の表の扱いは触れられていない。
 本書は,代表的な表計算ソフトであるエクセルを用いて,エクセルが扱える範囲での実用的な産業連関分析の方法を解説する。産業連関分析は数学的には線形代数である。従って,本書は産業連関分析を例として用いたエクセルによる線形代数の解説書でもある。高等学校程度の線形代数と初歩的なPC操作についての知識の他は,産業連関分析についての事前知識を必要としない。エクセルによる実習を行いながら,産業連関分析を解説する。


(本書の特長)
- 経済学は本来,「経国済民の学」として実学的な側面を持つべきであるという観点に立ち,読者をして実際に産業連関表を加工し,希望する分析が自由に行えるようになることを目的としている。
- 従来の記述的説明を中心にした産業連関分析の解説書と異なり,実際にエクセルを用いて産業連関分析が使えるようにすることを目的としている。
- 教材としてダウンロード可能な公表資料などを用いる。
- 日常的・卑近な事例をなるべく多く取り上げて,現実を分析する道具としての産業連関分析を中心に解説する。特に,地域・国際問題への応用,環境問題,LCAへの応用を重点的に取り上げる。
- 理論的には高度な「動学モデル」や「線形計画モデル」についても,必要な範囲で平易に解説する。


(本書の概要)
1章では,最も初歩的な一財の場合について,行列代数の知識を使わずに産業連関表の考え方,投入係数,逆係数,数量波及計算を解説する。次にこれを二財の場合に拡張し,一財の場合と対比しながら行列代数による演算を解説する。エクセルの基本,絶対参照と総体参照,MMULT,MINVERSE コマンド,静学モデルと動学モデル,中間需要と最終需要を取り上げる。2章では,30部門程度の表を用いて,外国貿易の計上の仕方,輸入の扱いと数量波及効果分析,数量表の双対としての価格表と価格波及効果分析を解説する。IFコマンド,名前付き範囲,複数シートを用いた演算,競争・非競争輸入型表およびモデル,購入者価格・生産者価格表を取り上げる。3章では,わが国の産業連関表について,基本表,付帯表,物量表,副産物の扱い方,部門統合の方法を解説する。産業技術と商品技術,U表とV表,部門統合と波及効果計算を取り上げられている。4章では,日本を例とした地域産業連関表とその応用,日米・日韓等を例とした国際産業連関表とその応用,レオンチェフの世界産業連関モデルとその応用について解説する。5章では,環境問題への産業連関表の応用を解説する。レオンチェフの公害防止モデル,アイサードの生態系連関モデル,国立環境研究所による温暖化ガス排出分析,オランダ統計局のの環境統合勘定NAMEA,ドイツ統計局の物質収支モデルPIOT,中村の廃棄物産業連関モデル,LCAに用いられる積み上げ法と産業連関法等を取り上げる。これらで扱ったモデルは全て最終需要を所与としている。これを拡張する試みとして,6章では,設備投資を内生化した動学モデルと,消費を内生化した労働供給・消費モデルを解説する。投入係数の変化を如何に産業連関モデルに取り込むかは大きな課題である。これを巡って,生産性・技術変化とRAS法,線形計画法の応用。応用一般均衡分析と産業連関分析を平易に解説している。


(もくじ)
第1章 産業連関の初歩
第2章 産業連関分析の基礎
第3章 産業連関分析の実際
第4章 産業連関分析の拡張:地域・国際
第5章 産業連関分析の拡張:環境への応用
第6章 進んだ課題