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シックス・シグマ
三田昌弘訳

A5判 832頁
\16,800


世界的ベストセラーの日本語版

シックスシグマの創始者モトローラのマイケル・ハリーによる、品質管理の手法を用いてプロセスのボトルネックを突き止め、それを管理限界内の数値に安定させつつ、最適値に近づけていく経営手法であることは理解できる。ただ、この手法のユニークなところは、上記のような社内プロセスの革新を行うための手法であるばかりではない。広範な統計手法の体系であるシックスシグマを推進する中で、どのような状況に直面したときにはまずどの手法を用いて検証し、次いで状況がこのように変化したらどの手法を採用したらよいかといったノウハウを身につけさせるための人材育成プログラムが同時進行していることが重要である。

シックスシグマでは、特に大手の日本企業にありがちな、経営革新プログラムを外部のコンサルタントに丸投げで外注し、彼らが改革のレールは敷いてくれたものの、「ではあとはがんばって下さい」といわれて途方に暮れてしまうようなことはない。今後の自社経営において中枢を担うことになると経営陣が認める人材を選抜した上で、上記のような手法の体系を教育し、それらを実地でどのように活用すればどのような成果が(金銭的に)現われるかを納得させてくれる。つまり、改革のプロセスを通じて次代の指導者を育成していくプログラムなのである。ただ、この経営革新の段取りを実地で習うというプロセスは独習では難しかった。後述するMAICと呼ばれる4段階のプロセスで用いられるゲージR&R、管理図、特性要因図、パレート図、散布図、故障モード影響解析(FMEA)、応答曲面分析、田口メソッドなどは、それ自体は統計手法、品質管理手法である。このような統計的品質管理手法を、体系的に、TPOに応じて、統計のプロではない人たちに習得させたうえで、重要な経営課題の原因および対策法を導出し、展開していくのがシックスシグマである。
昨今でこそ、企業の成長戦略や財務戦略を練ることだけが戦略的な施策ではなく、企業活動の諸プロセスに潜むボトルネックに対処することの戦略的な意味合いが理解されてきているが、そもそも単なる品質管理手法ではないシックスシグマの導入責任者を、品質管理室長クラス(彼らは社内で初のブラックベルト、マスターブラックベルト取得者となる傾向がある)に任せて、あとは適宜報告だけ受けている経営者が多かった。彼らには、統計用語や品質管理用語は語れるが、経営そのものやその課題を語れないことが多い。むしろ、経営課題や個別事業が抱える問題点に通じている人たちにシックスシグマを教育し、習得したスキルを活用して経営改革にあたってもらうのが正しいアプローチであろう。

アプローチが正しいことは理解されたとしても、依然として大きな障害が横たわっている。それは、「経営課題や個別事業が抱える問題点に通じている人たち」をシックスシグマ専任とし、4ヶ月をかけてトレーニングしたうえで経営改革にあたらせることには大きなコストがかかるということだ。コストには2種類あって、ひとつは直接コストといってもよい。これは、シックスシグマのトレーニングを行っているトレーニング・コンサルティング会社が外国企業であり、トレーナーは欧米から日本に出張ベースでやってくることもあって、トレーニング経費がかさむことである。トレーナーが日本までやってきて1週間ほど滞在していくとすると、彼らのコンサルティング料、人件費、航空運賃、ホテル代などを足し算すると相当な金額になる。ある程度まとまった数の参加者が集まれば、一人当たりの経費は数百万円ですむが、一桁の参加者しか集まらなければ一人当たり1000万円を超えるような経費がかかることもある。これに加えて、非常に大きな間接コストの発生を覚悟しなければならない。それは、企業経営や事業運営の第一線にいる社内で最も優秀な社員を引き剥がしてシックスシグマに専従させることの機会コストである。事業が比較的安定しており、シックスシグマ・トレーニングのために投入することのできる資金的な余裕のある会社であっても、選りすぐりの人材を長期にわたって拘束されてしまうことには二の足を踏む。企業にとってはこちらのほうが困るケースが多い。あまり困らないという企業は、それほど重要な人をアサインしていないのではないだろうか。


本書のメリットであるが、上記のような非常に魅力的ではあるが、実施するのに相当の覚悟のいるシックスシグマを、高額の費用を投じてコンサルタントを海外から呼んで講習を受けずとも、優秀な人間を仕事から引き剥がしてアサインしなくても、自分で余暇を見つけて独習できるようにという意図で編纂されている。これまで、複数のシックスシグマ・コンサルティング会社のトレーニング用教材を見たが、ボリューム的には本書の倍程度になると思う。コンパクトというにはあまりにも分厚いが、それでもそうした教材の中から重要な部分を抜き出し、しかも通常はトレーナーが口頭で語って聞かせるような実践的エピソードを事例として盛り込んでくれている。さらに、実際のトレーニングで参加者に課されるような演習の項目まで入れて、単に読むだけではすぐに忘れてしまうような重要事項について、より深い検討ができるようになっている。
 シックスシグマのトレーニングでは、冒頭にカタパルト演習というのを実施し、シックスシグマを通じて最終的にバラツキを終息させていくプロセスというものを感覚的に理解させるが、著者はこのカタパルトを買いたい人には売ってくれるそうだ。

このように、本書はシックスシグマの解説書の範囲を大きく超えて、どちらかといえばシックスシグマのコンサルティング会社がトレーニング用に使う教材に迫っている。しかし、そうした教材はトレーナーの肉声が伴わない限り、一人で読み進めただけで理解できるようには編集されていないことが多い。
 本書は専門の教材に迫るだけのボリュームと中身を備え、しかも独習しようという意欲的な読者が苦労せずに読めるように、できるだけ専門的な記述は避け、実例を盛り込むことによって臨場感を与え、統計ソフトと対で用いることによって、本当にシックスシグマのトレーニングを受けているかのような感覚で独習することができる。しかし、あくまでも読書を通じた情報伝達の限界もある。
 著者はスマーター・ソリューションズ,Inc.というシックスシグマのコンサルティング会社を設立し、セミナーやトレーニングも行っている。本書を読んでシックスシグマについての深い理解を得ることのできた読者は、自らシックスシグマ活動を推進するという意欲的な取り組みを始めてもいいだろう。


本書に序文を寄せている有識者の言葉から、本書の特長について記した部分を抜き出してみよう。

シックスシグマ』は、自分の今いる組織を変えたいと思うすべての人のために書かれた本である。シックスシグマ・プロジェクトではどんなことをするのかをステップ・バイ・ステップ・アプローチで学びたいと考えるプロジェクト・マネジャーや従業員チームメンバーから、最高度の実験に対する現実に即した解法、開発や生産にからむ問題点の解決策といったものを見つけるための統計的な参照マニュアルやサンプルが欲しいと考える高度な訓練を受けた品質エンジニアにいたるまで、『シックスシグマ』は様々なレベルのニーズに応えてくれる。(中略)私はこれまで多くのシックスシグマ・アプローチを目にしてきたが、ブレイフォーグルのS4アプローチは最も包括的なものである。S4アプローチは、以下の事柄を考慮しながら、シックスシグマをビジネスの文脈に用いることを想定している。

・ 組織戦略とビジョン
・ コミュニケーション戦略と教育戦略
・ 企業文化と歴史
・ ビジネス経済学とプロジェクトのプライオリティー付け
・ 組織および個人のスキルとコンピテンシー
・ 組織が変化を自分のものとすることのできるペースと程度


【IBM フランク・シャインズ・ジュニア】

この本はあらゆる業種において品質改善プログラムを実行しようとするマネジャーや、それに参加する従業員のための頼りになる参考書となるに違いない。これに加えて、すべての章は、文字通り役に立つ統計ツールに焦点を当てた数十本のショートコースからなる教材として使うこともできるのだ。【セマテック社 ポール・トビアス】

本書は、多くの組織が競争力を向上させ、欠陥レベルを低下させ、サイクルタイムを改善するためにはどうすればよいかを説明している。本書は伝統的なシックスシグマのプロセス測定・改善ツールをまとめただけのものではなく、その他多くの役に立つ手法を、一冊の理解しやすいテキストにまとめあげている。章末に添えられたS4アセスメントと名付けられたセクションでは、所与の状況に対応するために最もふさわしいアプローチはどれかということについて、見方の変わった見解を与えてくれる。著者が実際に体験したことの実例は、シックスシグマのツールのさまざまな応用法を実感しやすい形で教えてくれる。さらに、この本は経営者、専門家、技術者、管理者や他の実務家向けのシックスシグマ・ガイドである。【モトローラ大学 ビル・ウィゲンホーン】

次に、本書の具体的な内容や構成について紹介しよう。本書においてはシックスシグマの導入・展開の方法論を「スマーター・シックスシグマ・ソリューションズ(S4)」と呼んでいる。S4もシックスシグマの導入・展開で一般的なMAIC(Measurement=測定、Analysis=分析、Improvement=改善、Control=管理)のプロセスに則っており、これらをS4と呼んでいると考えて差し支えない。


本書の構成は以下のようになっている。

・第1編:S4導入戦略フェーズ
・第2編:S4測定フェーズ(M)
・第3編:S4分析フェーズ(A)
・第4編:S4改善フェーズ(I)
・第5編:S4管理フェーズ(C)

第1編では、知識を中心に据えた活動(KCA)という視点に立ってS4プログラムを導入する際のメリットと導入法について説明している。KCAとは、知識の賢い獲得法および/もしくは、組織とプロセスに関する知識の賢い活用法のことである。S4プロジェクトの定義に則ってシックスシグマのツールを賢いやり方で適用し組み合わせることにより、収益の向上が実現されるという点について強調している。


第2編以降は、ウェーブと呼ばれるシックスシグマ・プログラムの展開期間4ヶ月間のうち4週間を割いて実施されるシックスシグマのトレーニング・プログラムとS4プログラムの導入について、MAICの順に解説している。概ね、各章ではMAICの各フェーズで、問題を分析するために使われる統計ツールの説明が行われた後、S4アセスメントと呼ばれる節においてアプローチ選択のあり方を解説し、最後に演習問題が必ず盛り込まれることにより、各章で取り上げられるトピックやツールの理解度を上げさせるという構成になっている。


【第2編:S4測定フェーズ(M)】
S4測定フェーズでは、工程(プロセス)の定義、工程能力、バラツキの定量化といった事柄について解説される。何が潜在的な主要工程入力変数(KPIV)と主要工程出力変数(KPOV)なのかを、コンセンサスを通じて決定していく。ここで登場するツールは、基本的な分析用ツールである。たとえば、まずは記述統計について概観した後、実験のワナについて述べ、プロセス・フローチャーティングやプロセス・マッピング、シックスシグマで用いる測定値、工程能力と工程性能、測定システム分析(ゲージR&R)、失敗モードと効果分析(FMEA)、特性要因図、そして品質機能展開(QFD)といった分析用ツールについて説明される。

【第3編:S4分析フェーズ(A)】
S4測定フェーズでは、因果関係についての知識を得るためのデータ分析について解説される。この分析を通じて得られる情報は、バラツキや不満足な性能をもたらす源が何なのかを理解するのに役立つヒントを与えてくれ、このヒントを元に工程(プロセス)を改善していくことができる。ここで登場するツールは、データの視覚化とそれに付随するデータ検定、信頼区間と仮説検定、分散成分、相関分析、分散分析などである。

【第4編:S4改善フェーズ(I)】
S4改善フェーズでは、ひとつの工程の中で、複数因子の運用レベルを構造的かつ同時並行的に変化させることを通じ、工程に関する知識を得るためのDOE利用法や応答曲面分析(RSM)について解説される。この情報は、工程(プロセス)を最適化したり変更を加えたりするための主要変数を特定するのに役立つ。

【第5編:S4管理フェーズ(C)】
S4管理フェーズでは、工程(プロセス)管理について解説される。また、事前管理とポカヨケなどを含む、エンジニアリング工程管理(EPC)についても述べている。本フェーズで紹介されるツールや手法は、一般的なシックスシグマ・プログラムではあまり馴染みがないが、信頼性、パス/フェイル機能試験などに関する解説を読めば、シックスシグマが思いのほか、幅広い実践が可能であることが理解できる。

本書は、ビジネスおよび学問の双方にとっての実用的なガイドである。ビジネス向けには、多くの実例と豊富な応用演習により、シックスシグマ関連ツールの賢い活用を教えてくれる便利なガイドとなる。また、学生向けには、実践的なツールやロードマップについて学び、すぐにでもそれを実地に適用できるように、実践的な講義形式をとっている。多くの組織において、シックスシグマのビジネス戦略を賢く導入するためのステップ・バイ・ステップ・ガイドが求められている。本書はそうしたニーズに対する答えであると著者は述べている。