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数学的思考・微分編
-文系と理系の融合を目指して-
東京工業大学教授(数学) 井上 淳 著

A5判 176頁
¥2,079


●あっ、分かった!--「創造性と数学」 同じやるなら、数学やらなきゃ、損々?
●「何故文系と理系なのだ、数学は最高の言語なんだぞ!」
●「数学は面白い。諸君の興味を惹かないのなら、書き方が悪い」。
●「数学とは何か?」というとき、の幾つかの試みを本書の著者は行っている。
●「暗号だって経済だって数学無しには立ち行かないないのに何故文系と理系」

 今までの数学教育は、先に西洋数学というある全体像があって、その上で概念を定義という形で導入しその定義が必然性を持つとされる定理を述べ、証明という順序で書かれた教科書を忠実に下敷きにしてきた。同様に、数学ではその概念が必要になった理由を考えることこそが大切なのだが。これだと、「教え込む」という知識注ぎ込み方「教育」になりがちである。しかし、数学研究者を目指してもいない大多数の人々に、この教え方で共感を得られるのだろうか?

著者は分かるということの楽しさ、その分かった内容を確実に他人に伝えることができ、それが正確に伝わったかどうかも調査できる、という「最高の言語機能をもったもの」として数学なるものを説明している。初等幾何学の作図問題や証明問題は「分かるということ、その快感を体験できるもっともすっきりした例」であった。その体験がしにくくなっている現在、分かるという体験を、微分積分という眼には見えない抽象概念を主題にし、共有しようと試みるのだから、この試みが易しいとはとても言えない。最近、ゆとりある教育とか分かる数学とかいう掛け声の下、一方で講義内容を少なく易しくという方向とともに、もう一方で大学における学力低下という問題が深刻になっている。

この読本の上巻(微分編)では、「円と同面積の正方形は、定規とコンパスのみを用いては作図できない」という「ギリシャ時代の哀れな農民の果たされない望み」を微分学を用いて説明する。
下巻では積分学を導入する。ともかく、知的好奇心とは何ものかを、数学という枠組みの中で共に考えていく。最終的には「数学という堅牢な構造物の由来が分かればよいのであって、数学の試験の点数が良いことなどはほとんど意味がない」と悟ってもらえたら、それが著者としてはもっとも喜ばしいことである。


本書の内容

長めの「序」で「数学の求めるもの」を概観すると共に、いくつかのクイズを述べて読者の興味を起こそうとしてみる。第1章で、実数という概念、特に「実数の連続性」なる少々分かりにくい性質を色々の例をとって説明する。但し「実数の構成」はできないので、もどかしい面もあるかも知れない。実数は分かっているとする人もいるかもしれないが、「数」という概念自身がかなりの抽象化を必要とする。それからさらなる抽象化を用いて存在するとしている実数なる概念を把握するのはなかなか難しい。「実数は分かっている」のだろうか?何がどう分かったら分かったこととしてよいのだろうか?

第2章で、多くの読者は関数とは平面に書いたグラフと理解しているかも知れないが、「関数」という概念を導入する。例えば、数列という
高校時代苦しめられたか楽しんだかした概念は、定義域が自然数全体で値域が実数の関数とみなせ、それらの性質が入試問題として提出されたのである。第1章で導入した実数の連続性から、「無限小」という概念を用いて、関数の連続性、微分可能性について詳述する。高校時代は二つの関数の交わりをグラフを用いて示し二つの関数から決まる点を定めてきたが、連続性から「中間値の定理」を用いて、図を用いずに言葉でその事実を示す。合成関数の微分可能性の証明では、微分商を直接用いない変型した微分可能性の定義を用いる。 Taylor展開を用いて与えられた関数のある点の近くでの挙動を知ることができることを学ぶ。次に、多次元での関数という概念および性質を調べるために、「近い」という概念が、考えている集合上に定義された距離関数を基に定められる。それを用いて多変数関数の連続性、偏微分可能性、全微分可能性、Taylor展開、合成関数の微分可能性等を論じる。多数の付録で本文中に出てきた事柄を説明している。