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マダラ計量経済分析の方法
Maddala 著
佐伯親良訳(九州大学大学院経済学研究院)

A5判 上製ハードカバー 800頁
¥9,998


本書の特徴

 本書は,G. S. Maddala による計量経済学の最新の入門書 An Introduction to Econometrics, 2001 [改定第3版]の訳書である.本書の特徴を幾つかあげるとすれば,次のようになろう.

第1に,計量経済学で取り扱われているほとんどすべてのトピックスを網羅している点である.入門書と銘打ちながら伝統的な計量経済学の視点からの記述に加えて,最近の時系列計量経済分析に至るまで広範にその内容を展開している点に驚かされる.計量経済学の理論的な視点からは,その意味をできるだけ解りやすく展開している.時には,くどいように記述されている所もあるが,読者の理解を深めるための著者の方針なのであろう.

第2の特徴的な点は,例題,数値例が豊富である点である.近年,わが国においても,計量経済学に関する類書がかなり出版されているが,これらの多くの著作物に比較してもさらに多くの数値例を取り上げている.計量経済学の考え方を詳説し,理論的推定方法,仮説検定の方法を実際の経済分析にどのように適用していくかについて現実的な例を述べ,その結果についての見方,考え方を述べている点は,計量経済学の理論と実際に関心がある者に大きな魅力となっている.
今日では,パ−ソナルコンピュ−タの驚異的な進歩によって,計量経済分析を進めるための環境は大幅に改善されてきている.実務家にとっても標準的な最小2乗法を機械的に適用することのみならず,条件に応じた最適な分析が求められている.本書はこのような要求にも答えられるものと判断される.ただ,本書は一見してわかるように,取り扱っている範囲が極めて広いので,時間をかけ,落ち着いて読むことも必要であろう.

第3の特徴は,先に述べた点と重複するが,経済デ−タの持つトレンド,非定常性に関する取り扱いについての最近の分析を取り上げていることである.最近では,多くの経済デ−タが通常の回帰分析の仮定を満たさないことに鑑み,その取り扱いをどのようにするかに焦点が当てられている.この点から,本書では,非定常時系列の取り扱い,時系列計量経済分析の考え方が大幅に取り入れられている.必ずしも十分な展開がなされているわけではないが,基本的な時系列分析,単位根検定,共和分検定,VARモデルについての考え方を理解することができよう.

第4の特徴は,より進んだ読者のために,数学的な捕捉,付録を取り入れている点である.計量経済学の入門書では行列演算等による理論展開は極力避けるようにしているのが通常であり,本書もそのような線に沿っている.他方,より進んだ計量経済学の文献では,そのような記述は当然であり,その格差は小さいとは言えない.本書では,より高度な理論的展開に興味がある読者にもできるだけ対応するように各章で付録を設けてそのような展開の導入を試みている.

第5の特徴としては,終章において大標本,小標本での統計的標本理論を展開している点である.これらのトピックスは,より高度な計量経済学の文献で取り扱われるものであるが,本書では最尤法に関する代表的な結果とシミュレーション実験についての方法を概説している.上にも述べたようにパ−ソナルコンピュ−タの性能向上により,計量経済分析でのシミュレーション実験も以前に比して時間とお金を消費せずに行えるようになってきている.推定量の小標本特性,金融デ−タ等でシミュレーション分析等を考えている読者にも意味があろう.

第6の特徴は,コンピュ−タソフトウエアとの関連である.最近では,計量経済学を実際に適用し,定量的な分析を進める上で,数多くのプログラムが開発されてきている.RATS,TSP ,EVIEWS ,CATS in RATS ,SAS ,GAUSS 等々数多くある.また,Fair=Parke プログラムはソ−スが無料で配布されている優れたツ−ルである.
本書では,これらを含む代表的なツ−ルを利用し,上に述べた例題を処理している.分析に利用したデ−タも記載されているので読者はこれらを使って確認し,推定,検定方法等の実際を理解し,現実の分析への準備とすることができよう.計量経済学の理論のみならずその実際を理解することは重要であり, 本書の目指すところでもある.本書にはその他の特徴もまだ多く残されているが,これらは実際に読者が手にされて,あらためて確認していただくこととして,次に本書の構成を述べていく.


本書の構成

 本書は,以下に述べる17章から構成されており.各章のスタイルは,(1)目的,(2)内容,(3)まとめ,および,(4)練習問題,(5)数学的付録 のようである.従って,目的,まとめに目を通して,あらためて内容に立ち返ることもできるし,また,一通り読み終えた後で必要に応じてまとめのところを参照することもできよう.数学的理論展開に興味がある読者,さらに高度な計量経済学の書物,専門的論文に進みたい読者は,練習問題,数学的付録を参照されるとよい.各章ごとにその概要を見ていこう:


第1章 計量経済学とは
計量経済学の伝統的な考え方は,経済理論と統計理論,および,経済デ−タの融合である.このことを基点として,計量経済学の目的,方法,経済理論の検証に関する考え方を述べている.これらはフロ−チャ−トで示されているので,基本的考え方を容易に把握できよう.


第2章 統計的背景と行列代数
統計学的な考え方,見方は計量経済学の大きな基礎の一つである.ここでは,確率変数,確率分布,統計的推測,統計的検定についての概略が示されている.また,ベイズ的な見方についても一部記述されている.ここでの展開は統計学の概要であるので,統計的な分析方法に慣れていない読者,あるいはより十分な理解のためには統計学の文献を併用された方がよい.行列代数についてはその基本的な考え方が付録で展開されている.数学的展開に興味ある読者は,統計学同様,これに関する文献を併用した方がよい.また,最近では計量経済分析のための数学,統計に関する書籍もあるのでこれらを参考にするとよいであろう.


第3章 単回帰
単回帰モデルを実際に利用することは殆どないが,ここでの分析は,後の章で展開する多くの要素が凝縮されている.本章では,最小2乗法による推定の考え方を述べ,また,確率モデルとしての線形回帰モデルについて,基本的仮定の下での推定量の統計的分布を求め,標本推定値に基づくパラメ−タの仮説検定の方法を数値例も加えて取り扱っている.その他,逆回帰,予測の考え方,異常値の問題,特定化する関数形の問題を取り上げている.また,注意すべき点として回帰分析での落とし穴が述べられているので注意深く読むとよい.


第4章 重回帰
 重回帰モデルは実証分析の分野で広く利用されているものである.基本的には説明変数が複数であり,観測値も多数であるので行列演算による理論展開が必要であるが,これらのついては付録に任せ,考え方,重回帰で生じる問題を
より解りやすく取り扱っている.回帰係数の意味,重回帰分析でのパラメ−タの推定問題,仮説検定,分散分析を取り上げた後,興味ある問題として,回帰変数が欠落しているケ−ス,不必要な変数が方程式に含まれている場合を取り上げ,また,経済分析で重要な回帰係数の安定性に関する仮説検定を取り上げている.本章の内容も多岐にわたっており,また,数値例も多いので十分時間をとって読みたいところである.また,ここでは,大標本検定として知られている,ワルド検定,尤度比検定,ラグランジェ乗数検定についても展開されているので,その意味を理解するのに役立つ.


第5章 不均等分散
 基本的な回帰モデルの仮定が常に満足されるとはかぎらない.ここでは,そのうちの一つである誤差項に不均等分散がある場合について,不均等分散の意味,これが推定にもたらす影響,不均等分散の検定,不均等分散がある場合の処方箋,推定方法について述べ,数値例をあげている.不均等分散を解決する方法として,回帰変数によるデフレ-ション(割り算),対数線形モデルを利用することが多いが,ここでは,このような方法での注意点,検定等を述べているので一読しておくとよい.また,近年,誤差項に不均等分散がある場合の仮説検定で White の共分散の一致推定量を利用することがコンピュ−タプログラムで利用できるのでこの意味も合わせて理解しておくとよい.


第6章 自己相関
 基本的な回帰モデルの仮定が満たされない場合のもう一つの問題は,誤差項の自己相関(あるいは,系列相関)の問題である.自己相関については,ダ−ビン−ワトソン統計量が広く利用されている.しかし,誤差項が常に1階の自己相関に従っているとは限らない.この章では,自己相関の検定,モデルの推定について広く取り扱っている.標本から自己相関が示唆されたとき,これが,真に系列相関のモデルによるのか,あるいは,動的モデルの問題として定式化すべきかどうかは重要であり,ここで展開されている検定問題は実際上も大きな意味を持つ.また,系列相関の問題と関連して,時系列デ−タのトレンド,定常性,また,ARCHモデルについて取り扱われているが,経済変数の持つ特性を理解し,これを分析する上で重要な問題であり,これらの意味に精通しておく必要があろう.


第7章 多重共線性
 重回帰モデルにおける回帰変数間の相関関係は,推定量の分散に大きな影響を及ぼす.経済変数では特に,回帰変数間の相関が高いことが多い.ここでは,多重共線関係を示す尺度の持つ意味,多重共線関係がある場合の処方箋について述べている.


第8章 ダミ−変数と切断変数
 経済分析においては,質的な変数を取り扱う場合も多い.簡単な例では,所得階層間の相違,男女差,年齢差等による影響度の違いをモデルに反映させるものである.また,経済時系列では季節変動を含むものも少なくない.これらの変数をモデル化するのにダミ−変数がよく利用される.ここでは,このようなダミ−変数の推定問題を取り扱っている.しかし,ダミ−変数は被説明変数として意味を持つことも多い.これに関連して,線形確率モデル,プロビット,ロジットモデル,ト−ビット,切断されたモデルの取り扱いが展開されている.マイクロデ−タを利用したこれらのモデルによる分析は広く見られるところであり,質的変数の取り扱いにも読者は興味をもたれよう.


第9章 同時方程式モデル
 伝統的な計量経済モデルについての入門である.ここでは,Cowles アプロ−チと呼ばれる方法の持つ識別問題について説明し,同時方程式体系の推定方法を操作変数法と2段階最小2乗法を中心に,数値例をあげて述べている.伝統的なアプロ−チでは,変数は大きく内生変数と外生変数に分けられるがその方法は明確ではない.ここでは外生性の問題について,最近の考え方を取り上げているのでその持つ意味を理解するのに役立つであろう.本章では,同時方程式体系でのモデルの解法,シミュレーション,予測等についてはほとんど触れていないが,代表的なコンピュ−タプログラムを利用し簡単なモデルで確かめておく必要があろう .


第10章 非線形回帰,期待モデル,および,非正規性
 計量分析を進める場合は,非線形モデルを特定化することは少なくない.そこで,ここでは非線形モデルの最適化法についてごく簡単に触れている.十分ではないがその意味は理解できよう.次いで,経済分析における期待変数の取り扱いを取り上げている.これは極めて重要であり,適合期待モデル,合理期待モデルの推定,検定問題を取り上げている.これらと密接に関連している分布ラグモデルの定式化,推定問題,また,合理性の検定等が展開され,数値例も付されているので興味深い.


第11章 変数誤差
 多くの経済デ−タには,測定誤差が含まれると予想されよう.それ故,変数誤差の問題は重要である.ここでは,取り扱う変数に測定誤差がある場合,これに直接最小2乗法を適用することができるかどうか,この推定量はどのような特性を持つかという問題を取り扱っている.単一方程式,多数方程式の場合を考慮し,幾つかのケ−スに分けてどのような偏りが生じるかを分析している.また,このような状況で操作変数法,代理変数法による推定量の特性についても分析している.


第12章 診断チェック,モデル選択,および,特定化検定
 分析モデルをどのように特定化するかは,計量分析を進める上でのもっとも重要な問題の一つである.前章で不均等分散,自己相関問題等を指摘したが,ここでは,より一般的に実際のデ−タがどのようなプロセスで生成されてきたかを特定化し,これをどのように検証し,モデル化するかを取り扱っている.モデルの残差項に関する診断チェックでは,OLS残差等,どのような残差推定値を利用するかを詳細に述べ,モデル選択の方法,回帰変数の選択,特定化検定の方法等多岐にわたる手順,方法が述べられている.統計的方法によるアプロ−チで,経済理論的な側面が記述されてはいないが,計量経済学でのモデル化は,デ−タマイニングも一つの重要な柱であることから本章での方法を理解することも重要である.


第13章 時系列分析入門
 経済時系列分析の基本を扱っている.時系列分析に必要な確率過程の概念を述べ,AR過程,MA過程 ,ARIMA 過程の推定問題,Box-Jenkins 流の時系列モデルの取り扱いについて述べている.


第14章 ベクトル自己回帰,単位根,および,共和分
 本章は,最近の時系列計量経済モデルの考え方を展開したものである.従って,ここでのトピックスは,VARモデル,単位根検定unit root test,共和分 co-integration, VARモデルと共和分,誤差修正モデル,および,共和分検定等多岐にわたっている.第6章で経済時系列デ−タの定常性,非定常性について取り扱っているが,本章ではこれらの問題を包括的に取り扱ったものである.大雑把に共和分関係を述べてみよう.所得と消費の関係は,互いに同じような動きをしており,線形関係は安定している.消費と所得の単回帰モデルを考えるとその残差は定常である.この時,所得と消費は共和分関係にあると言われる.また,この関係は,誤差修正モデルとして表現することもできる.このように時系列デ−タの特徴,相互関係を見る上で本章は極めて重要である.また,CATS in RATS のようなコンピュ−タプログラムでこれを利用することが可能となっているので,ここでの考え方を理解することは重要である.


第15章 パネルデ−タ分析
 経済分析を進めるのにパネルデ−タを利用できれば,かなり多くのことを分析することが可能となる.最近ではこのようなマイクロデ−タを利用することも考えられる.ここでは,パネルデ−タの基本的なモデル化,推定,パラメ−タの仮説検定の問題について概説したものである.


第16章 大標本理論
 最尤法について,その考え方,尤度関数を解くこと,最尤推定量の特性と最尤法に基づく大標本検定(尤度比検定)についてまとめている.また,一般化モ−メント法について概略を述べている.


第17章 小標本での推測,リサンプリング法
 モンテカルロMonte Carlo シミュレーション,ジャックナイフ Jacknife,ブ−トストラップ Bootstrap 法について概説している.
付録  数表等


(1)Estima
(2)TSP international
(3)Quantitative Micro Softwaare
(4)Estima
(5)SAS
(6)Aptech system
(7)例えば,Fair=Parke プログラムにより米国経済のモデル等を参照するとよい.