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マクロ経済学の基礎
慶応義塾大学助教授 伊藤幹夫著

本書の特色

本書は大学1年生あるいは、経済学をはじめて学ぶ人のための、「マクロ経済学」の標準テキストである。

経済学入門としての側面を持ち、今後ミクロ経済学など、理論として抽象度が高いものを学ぶ場合にも役立つように工夫されている。

また、単なる机上の空論という印象を、読者がマクロ経済学に対して持つことのないように、経済の仕組みそのものについて、丁寧に解説を試みている。さらに最近のマクロ経済学の研究成果を紹介し、標準的なマクロ経済学の記述と連続性をもたせるようにしてある。




本書の章立て

序 章 マクロ経済学の目的

第1章 経済の仕組み

第2章 経済循環の枠組み

第3章 市場均衡の考え方:経済学の視点

第4章 支出主導の国民所得の決定

第5章 金融の仕組みと国民所得の決定

第6章 物価の変動と雇用の決定

第7章 経済政策の効果:財政政策と金融政策

第8章 開放マクロ経済:海外からの影響

第9章 経済の変動:循環と成長

第10章 まとめ




本書の内容

序章 「マクロ経済学の目的」 では、経済学の扱う主題は何かを解説し、その上でマクロ経済学が明らかにしようとすること、ミクロ経済学が明らかにしようとすることを、それぞれ示す。さらに、マクロ経済学が、どのような特徴をもった考え方に基づいて分析を進めようとするか、また分析対象に対して、接近の仕方をするかを説明する。さらに、ミクロ経済学との関連についても示す。

■ 第1章 「経済の仕組み」 では、はじめて経済学を学ぶ読者を念頭に、経済学が対象とする経済システムとはどんなものかを、解説する。これは、日常の理解のレベルで漠然と理解する経済というものと、経済学が科学の対象として考える経済システムの、橋渡しを目的とする。後の

章できちん定義される用語の簡単な解説や、経済の仕組みについて、高校段階で習うことの復習も行なう。

■ 第2章 「経済循環の枠組み」 は、前の章で示した経済の制度的な枠組みを考慮して、経済の全体的な活動水準を捉える、包括的な枠組としての国民経済計算の解説を行なう。国民経済計算は、消費者や生産者・政府の間の取引き、さらに海外との関係、様々な財が生産される段階での関連、国全体の富の蓄積などを整合的に捉える体系である。これを、仮設例や、比喩などを駆使して、学習者が理解できるように便宜を図る。

■ 第3章 「市場均衡の考え方:経済学の視点」 では、経済学がどのように、現実の経済を捉えるかのヒナ型を、解説する。そこでは、市場均衡の考え方が、簡単な数式を用いて、説かれる。またその考え方が、経済学にとってどのような意味を持つのかを示す。この章は、初心者にとってやや抽象度が高い内容を含むが、くだけた比喩なども用いて、やさしく理解できるように工夫してある。

■ 第4章では、最も簡単なマクロ経済モデルとして、支出モデルを扱う。いわゆる45度線モデルなどとよばれるもので、非常に古くから知られているが、これ以降の章で中心となる考え方を最も単純な形で具体化しているという意味で、初心者にとってとっつきやすいものであろう。また、この理論が最初に発表された当時、革命的な理論とみなされたこと、伝統的な経済学の理論と、どのように対立するか等を、面白く解説する。

■ 第5章 「支出主導の国民所得の決定」 では、前の章で単純化していた、いくつかの事項を現実に近づけた理論を紹介する。つまり、投資関数や消費関数の構造、経済における金融システムの働きを、もっとも明解に示す貨幣流通の仕組み、それらを包括した形で、国全体の経済活動水準の決定の理論とする、いわゆるIS-LMの理論を解説する。これらは、初歩のマクロ経済学の理解に決定的な内容を持つために、図、その他を用いて特に丁寧な解説をしている。

■ 第6章 「物価の変動と雇用の決定」 では、現実の経済において特に関心の対象となる、雇用水準と物価の決定についての基礎的な理論を説明する。物価の決定と雇用の決定が、どのように関連するか、また、そうした物価・雇用決定の理論の背後には、どのような経済的な事実があるかも示す。さらに、物価が時間を通じて、どのように変化していくかについての、マクロ経済学の考えに関して入門的な解説を行なう。この段階で、初心者は、伝統的なマクロ経済学の考え方の中核を、大体理解できるようになる。

■ 第7章 「経済政策の効果:財政政策と金融政策」 は、それ以前の章では、深く取り扱わなかった、政府部門の財政政策、中央銀行など金融当局の金融政策が、マクロ経済にどのように影響するかを扱う。特に、どのような状況において財政政策・金融政策が有効に働くのか、またそれらの政策が無効となるのは、どのような条件の下でなのかが、やさしく解説される。さらに、金融政策とインフレーションの関係などにも言及する。また経済政策全般の、基礎的な考え方を、政策の目標と、政策手段の関連から、説く。

■ 第8章 「開放マクロ経済:海外からの影響」 は、一国の経済が、海外との取引きによって、どのような影響を受けるかを、国民所得水準など、マクロ指標への影響に絞って解説する。ここでは海外との取引きが、財・サービスの貿易、金融面での取引きの、両面を通じて一国の経済とどのように関わるかの枠組を示す。その上で、それまでの章で扱った、マクロ的な経済活動水準の決定の理論とどのように関連するか、また、どのように修正されるのかが、様々なケースを整理して説明される。

■ 第9章 「経済の変動:循環と成長」 では、景気循環や経済成長など、ある程度の長期的な時間を通じて、国全体の経済活動水準が変化する仕組みを概観する。特に、経済が成長する要因を明確にする枠組み、現実の経済における、成長の要因、景気の循環現象の主たる要因は何なのか等についての解説を、初心者むけに簡単に行なう。

■ 第10章 「 まとめ」 では、第1章から第9章まで学んだことを、整理してまとめる。それと同時に、そこでの結論の意味を、より進んだマクロ経済学の学習を望む読者への指針という形で、解説する。

■ 付録では、本文の中で使われた、高校程度の数学に関してごく簡単な解説を行なう。