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金融工学プログラミング

L. Clewlow&C. Strickland 著,
あさひ銀行金融基礎研究所
葛山康典 他訳

A5判/416頁
本体価格6,900円

ISBN4-87315-107-4


(本書について)
 本書は,金融派生商品の評価をどのように実装(ソフトウエア化)するかについての解説書である。
 金融派生商品の価格評価理論は,経済学の一領域として発展してきた色彩が強い。しかしながら,理論モデルを実務に応用するには,工学的な「くふう」が不可欠である。例えば,複雑なペイオフを持つオプションの価格式が陽に求められていても,その評価式に含まれる数値積分が実務的な環境で実行可能でなければ,この価格公式は実務に用いることはできない。数値積分を実務的な環境で実行する(つまり,トレーダーの手元にあるパソコンやワークステーションで,瞬時に計算する)ためには,別の技術が必要となる。あるいは,金融資産の最適ポートフォリオの定式化がなされたとしても,最適化が可能であるかは別の問題である。金融派生商品の評価を行う分野が,Financial Engineering(金融工学)と称された理由のひとつは,このような事実を反映したものであるといえる。ますます複雑化する金融商品の設計を行うためには,計算機科学の分野の成果である,データ構造・アルゴリズム等の研究成果を積極的導入する必要がある。
 数学的な厳密性は別にして,金利モデルに関する初等的な知識を有し,この知識をソフトウエア化して,業務に生かしたいと考えている人々は金融業界の広範な領域にいると考えられる。本書は,このような知識を有し,実用化のニーズを持った金融派生商品のトレーダーやソフトウエアエンジニアにとって格好のテキストである。一方で,大学の高学年あるいは,大学院の修士課程でこの分野を学ぼうとする初学者にとっても,有用な情報源となることであろう。
 想定される読者は,金融派生商品の評価についての基本的な知識を有するものの,理論的な精密さよりも,実用化に関心をもつ者,教育機関の初学者等である。あるいは,トレーダーの研修用テキストとして利用可能という意味で,「ファイナンシャルエンジニアリング」(J. Hull, Options, Futures and other derivatives)と同様に,原書や原論文を直接理解するレベルの前段階の教科書的な位置づけにあると考えられる。


(本書の特長)
- 金融派生商品の代表的な評価モデルが網羅され,そのソフトウエア化に必要な疑似コードが掲載されており,ソフトウエア化のための,より具体的な手段が提供されている。
- 金融派生商品の評価モデルと,アルゴリズムを見通し良く理解することができ,また,ソフトウエア化を意識していない読者に対して,豊富な数値例がモデルの理解を助ける。


(本書の構成)
 本書の構成は二部に分かれており,第I部は「一般的な Black-Scholes 型モデルの実装」,第II部が「金利モデルの実装」である。
 第I部は,株式のように原資産がBlack-Schloes 型の確率過程に従う場合を想定し,評価のためのアルゴリズムをしめしている。具体的には,まず,リスク中立確率など,デリバテブの評価に不可欠な概念を俯瞰し,Black-Scholes 公式を導出し,?2項モデルあるいは3項モデルのもとでの価格評価,?有限差分法による価格評価,?モンテカロシミュレーションと疑似モンテカルロシミュレーションの代表的な評価方法を概説した後,その応用として,インプライド・ツリーや,エキゾチック・オプションの評価に関するアルゴリズムを示している。
 第II部では,初めに金利デリバティブの評価方法の基礎概念が解説され,代表的な金利モデルを比較分類されている。第?部では第?部で説明した手法を金利デリバティブの評価に応用する方法が解説されている。


(本書の内容)
 第I部第1章では,Black-Scholes公式を導出しながら,第I部全ての章の礎となる数学的な基礎を俯瞰するため,金融派生商品の評価モデルをソフトウエア化するために不可欠な知識を解説する。ここでは,数学的な厳密さを犠牲にする一方で,一般的なBlack and Scholes(1973)の世界でなされる仮定の背後にある直感を提供し,どのようにこれらの仮定がデリバティブの価格決定に結びつくのかを示す。第2章では,原資産価格の推移を2項ツリーを用いて表現する方法を紹介し,それをどのように一般化するか,そしてアメリカン・オプションの価格決定にどのように用いるか,について述べる。第3章では,デリバティブの数値的解法である3項ツリーモデルと有限差分法に関する理論的な背景とアルゴリズムをその利点と問題点に触れながら詳しく解説する。また,各有限差分法の安定条件,収束条件,精度についても言及する。第4章では,解析解が存在しない多くの複雑なデリバティブのプライシングやヘッジに対して,モンテカルロシミュレーションがどのように適用されるのかという点について述べる。また単純なモンテカルロシミュレーションは計算が非常に非効率である為,主眼をシミュレーションの効率性改善に置き,その方法についても示す。第5章では,標準的なヨーロピアン・オプションの市場価格と一致するインプライド・ツリーをどのようにして構成していくか,またそのツリーを使ってバリア・オプション,ルックバック・オプション,アジアン・オプションなどの経路依存型のエキゾチック・オプションをどのように価格決定していくか,最後にヨーロピアン・オプションを用いたエキゾチック・オプションのヘッジ手法を述べる。
 第II部第6章以降は,金利モデルの実装に関する内容である。まず本章では,各種金利系商品の紹介を行った上で,金利のモデル化の基本となる割引債価格,スポットレート,そしてフォワードレートの三者の関係を整理する。そして,One-Factor-Modelにおいて,多くの金利デリバティブ商品が割引債のポートフォリオとみなした評価が可能であることを,Jamshidian(1989)が提示した方法に基づき示す。この考え方は,最も基本となるOne-Factor-Modelを実装していく上で,極めて重要な概念であると同時に,実際にモデルを実務で利用する際に不可欠なキャリブレーションにおいてその威力を発揮するもので,実務家にとっては極めて有益な情報と言える。第7章では,8章以降で展開される「金利期間構造モデル」の数値技法を実装していく上で不可欠な理論の概略と,各モデルにおけるボラティリティ構造,割引債価格の評価方法,割引債オプションのプライシング方法,キャリブレーション方法とそれぞれの実データを用いた計算例が解説されている。第7章において解析的に扱いやすい金利モデルの例が紹介されたが,一般に多くのモデルはそのような性質を持ちあわせておらず,第?部で解説されたものと同様の数値技法を利用しなければならない。また,解析的に扱いやすいモデルの場合にも,早期権利行使や複雑なペイオフを持つ商品のプライシングに利用する際には,やはり同様の数値技法が必要となる。第8章では,そのような数値技法の一つとして第2章に引き続き再び2項ツリーを取り上げる。本章では短期金利の確率過程を表す2項ツリーの構築手順が示され,更に,2項ツリーを利用した金利派生商品のプライシング方法について解説される。第9章では,8章で解説した短期金利2項ツリーを3項ツリーへと拡張する。3項ツリーへ拡張することにより自由度が増し,Hull-WhiteモデルやBlack-Karasinskiモデルのような金利の平均回帰性を取入れたモデルをツリーで表現することが可能となる。8章と同様に,イールドカーブのみにフィットさせた場合と,更にボラティリティカーブにもフィットさせた場合の2通りについてツリー構築手順が詳細に示される。本章の内容は,実務において最もポピュラーな金利モデルであるHull-WhiteモデルやBlack-Karasinskiモデルの具体的な実装化方法を示している。第10章では,Heath, Jarrow and Morton(1992)が提案したフレームワークに基づき,金利モデルを効率的に実装するためのテクニックを簡単に紹介する。


(もくじ)
第I部
 第1章 Black-Scholes のオプション評価と,その数値計算のための技法
 第2章 2項モデル
 第3章 3項ツリーと有限差分法
 第4章 モンテカルロシミュレーション
 第5章 インプライド・ツリーとエキゾチック・オプション
第II部
 第6章 オプション・プライシングとヘッジ,金利デリバティブ・プライシングのための数値技法
 第7章 期間構造モデル
 第8章 短期金利2項ツリーの構築
 第9章 短期金利3項ツリーの構築
 第10章 Heath, Jarrow and Morton モデル